今回は、私が動物病院で勉強をしていた頃に来た、フィラリア症を発症した犬の話をご紹介いたします。
去年の夏のお話です。「メスのMIXが妊娠しているのですが、予定日を過ぎてもまだ産む気配がなく、食欲もなく、歩くこともままならないので一度診て頂きたいのですが」という事でした。
すぐに来て下さいと伝え、先生と待ちました。
診療所の前に車が停まり、中から今にも破裂しそうな大きなお腹をした茶色い子が、一歩前に足を出すことすら辛そうに、時間をかけて中へ入って来ました。
私も先生も一目見てこの子はフィラリア症だと分かりました。
先生は、飼い主様に「フィラリアの薬はあげてましたか?」と聞かれましたが、飼い主様は、薬があることをご存知ありませんでした。
先生はフィラリアという病気がある事、どういう症状がでるのか、罹ったらどうなるのか、一通り説明をされ、「この子は妊娠しているのではなく、お腹に腹水が溜まっていて、その腹水が胃を圧迫して食欲がないんです。歩くのが辛いのは、心臓にフィラリアの成虫が詰まり、血流が悪くなって、むくんでしまっているんですよ」と伝えられました。
飼い主様はご夫婦で来られており、奥様の顔がみるみる青くなっていくのがわかりました。
私達は、すぐに腹水を抜く処置にとりかかりました。お腹の中の水がみるみる抜けていき、その子は来た時の半分の大きさになり、ほとんど骨と皮だけになりました。
奥様は見ていられずに泣きながら顔を背けてしまわれる程その姿は変わり果ててしまい、お腹の中から出てきたのは、かわいい赤ちゃんではなく、バケツ約1杯分の腹水でした。
「お腹の水が無くなって、胃の圧迫がとれるから、食欲が出てくると思います。」と先生が伝えても、飼い主様はその姿に大変動揺され、ただ見ておられるだけでした。
前回もお話しましたが、現在は大変有効な薬が出ております。月に1回、たった一粒のお薬をあげるだけで、この病気の心配がなくなります。錠剤タイプ・飲ませやすいお肉の様なタイプ・妊娠中でも使用できるスポットタイプ等数種類のタイプのものがあります。
中にはある種類の犬には副作用があり使えないタイプのものもありますので、動物病院で先生と相談して、薬を決めて下さい。
フィラリアの薬は同時にお腹の中の虫も駆除できます。
人も同じなのですが、動物も予防医療が大切だと、私は考えています。
確かに、お薬は高額ですが、この病気に罹ってしまえば、治療費は予防薬よりはるかに高額になってしまいます。
最後に、フィラリア症に罹った犬の心臓の画像を今回はあえてお出しいたします。(白く細長いのが、フィラリアの成虫です)
私自身、小さい頃に飼っていた犬をこの病気で亡くしています。私は一人っ子なので、犬の存在は大きく、かけがえのないものでした。友達だったり、家族だったり、その子が居なくなった寂しさは、当時小学生だった私には本当に辛い経験でした。
この画像をご覧いただき、予防医療がとても重要だという事を、ご理解いただけたらと思っております。